歯科医師の福利厚生

歯科医師国保とは?健保との違いは?保険の種類を学ぼう

皆保険(年金)体制の中で、国民はいずれかの制度にひとつ必ず加入する義務を負っています。
では、歯科医師はどのような制度に加入する義務があり、それはどのような保障をを含んでいるのでしょうか?

歯科医師国保=歯科医師の国民健康保険

歯科医師は基本的に、勤務先の加入している各都道府県にある歯科医師国民保険組合、もしくは健保(社会保険)に基本的には加入することになります。
「歯科医師国保」とは、国民健康保険の中でも特定の職業の人が加入する「職域国保」のひとつです。職域国保とは、会社員の人が加入する健康保険組合や、船員、公務員、教員など特定の職業の人が加入するそれぞれの組合が独立した保険になります。

国民健康保険と歯科医師国保は、医療機関を受診する場合の負担は変わりません。しかしながら、掛け金がそれぞれの組合によって違っていたり、検査や予防注射の補助金が出たりするなど、その職業に特化した特典がもたらされます。

さらに、歯科医師国保は全国に20組合以上存在しており、地域によって加入できる組合が変わってきます。掛け金や保証内容についてはその地域の歯科医師国保の経営状況や方針などによって、まちまちです。しかしながら、職域に特化している保険組合は、一般的な国民健康保険よりも保障が充実している場合がほとんどです。

歯科医師国民健康保険の保障内容は?

全国歯科医師国民健康保険を例にとり、医療費負担を除いた保障を紹介します。

1)節目検診事業の実施
被保険者、及びその配偶者などの該当者に30,000円の費用補助

2)インフルエンザ予防接種補助
被保険者に3000円を上限とした補助

3)高額療養費資金貸付制度
高額療養費の支給受ける見込みがある組合員に対し、支給を受けるまでの間の療養費を払うための費用を貸付

4)出産費資金貸付制度
出産育児一時金の支給を受ける見込みのある世帯の組合員に対し、支給を受けるまでの間にかかる出産費用を支払うための費用を貸付

5)後期高齢者組合保健事業
後期高齢者組合員が入院した場合、申請ぬよりその費から疾病見舞金を支給、また、死亡した時に遺族に対し死亡見舞金を支給する制度

※2016年、全国歯科医師国民健康保険組合ウェブサイト(http://www.zensikokuho.or.jp/)より引用・抜粋

歯科医師国保と健康保険(社会保険)はどれくらい違う?

歯科医師国保は基本的には国民健康保険の一種です。「健保(社会保険)の方が得だ」と考える人も多いでしょう。
歯科医師国保と健康保険にはいくつかの違いがありますが、「保険料」と「扶養」の違いが顕著です。

歯科医師国保と健康保険(社会保険)の保険料について

歯科医師国保(国民健康保険)の保険料は世帯単位での加入数や年齢、収入によって計算されます。保険者によってこの計算方法はことなるため、ばらつきがあります。
対して健康保険は、“個人単位”の収入や年齢で算出されます。

実際どちらが得するか、と言われるとひとりひとり実際の計算をしない限り比べることはできません。ケースバイケースなのです。
不動産などの資産を持っている場合や、たくさんの扶養家族がいる場合は健康保険が保険料の面ではお得になりやすく、対して賃貸で暮らしている場合や扶養家族が少ない場合は歯科医師国保の方がお得になりやすいと言われています。

扶養について

歯科医師国保の大きな特徴として「扶養」という概念がありません。
配偶者や子どもがいる家庭を持つ歯科医師(世帯主)の勤務先が健保加入していた場合、歯科医師国保加入の医院に転職すると、負担が増える可能性が大きくなります。

給付面では健康保険のほうが歯科医師健保よりも有利なのか?

先述の通り、どちらが良いか、というのはケースバイケースです。
しかしながら「健康保険>国民健康保険」というイメージが強いのは事実です。

かつて国民健康保険が3割負担の場合でも、健康保険は自己負担がなかったという時代があり、そのイメージがあるご年配を中心にこのイメージが残っているようです。しかしながら御存知の通り、現在は健康保険の場合でも負担は3割ないし2割負担(組合により異なる)となっているため、今では窓口負担金に対しての差はありません。

「疾病手当金」と「出産手当金」は、健康保険の強み

しかしながら、健康保険(社会保険)が有利な面は一部に残っています。
病気やけがの治療で仕事を休まざるを得なくなった時に支給される「疾病手当金」と、出産のために仕事を休まざるを得なくなった時に支給される「出産手当て金」です。

いずれも一定期間(疾病手当金は6ヶ月間〜、出産手当金は出産前後約3ヶ月間 ※健保組合により異なる場合あり)、給料の約6割が支給されます。
結婚・出産といった人生における大きなイベントや、万が一の事故や病気になった時などは、健康保険が有利になると言えそうです。

しかしながら、転職においては職場を保険で選べる場合ではない時が大半だとは思います。「ほとんど変わらない」という点を覚えておき、心配な部分があれば任意で加入する医療保険・就業不能保険でカバーするといいでしょう。

歯科医師国保に加入しても厚生年金に加入しない場合がある?

小さな医院など、正社員4名以下の事業所では、厚生年金の加入義務がなく、歯科医師国保+国民年金に加入するケースがあります。

一般的に年収などから計算をする厚生年金の方が貰える額が大きい、というイメージもあり実際多くのケースでそのような事態となるため、この点をマイナスに感じる人もいるかもしれません。

そのような場合には厚生年金に(その事業所の中で密かに)任意加入する「任意単独被保険者制度」を適用してもらうか事業主に交渉することも可能です。
この制度に同意をすると、通常の厚生年金同様、事業主が保険料の半分を負担することとなるため、通常は「こっそり」「あなただけ」が加入することになります。

もし事業主の同意が得られた場合は、被保険者が「厚生年金保険任意単独被保険者資格取得証明書」を社会保険事務所へ提出することとなります。「年金手帳(または基礎年金番号通知書)」「賃金台帳のコピー」「事業主の同意書」を添付します。

ただ、医院の経営状況や事業主との関係性等で言い出しにくい等の事情があるケースも多いかと思います。それだけが理由で転職を考えるというようであれば、任意保険での個人年金などの活用も検討してからがいいように思います。

「社保完備」の意味は? 就職・転職する時にチェック!

歯科医師が就職先、または転職先を探す時の条件として福利厚生は検討事項のひとつです。「社保完備」と表示されている場合、どういう意味だと取ればよいのでしょうか。
歯科医師における保険のパターンは以下の4通りです。

1)健康保険(健保)+厚生年金保険(+雇用保険+労災保険)
2)歯科医師国保+厚生年金保険(+雇用保険+労災保険)
3)歯科医師国保+国民年金(+雇用保険+労災保険)
4)市町村国保+国民年金(+雇用保険+労災保険)

このうち「社保完備」とは(1)、(2)のケースです。
就職先が「医療法人」など、法人となっている場合は(1)、(2)のケースしか認められません。

健康保険と歯科医師国保の違いについては先述した通り、ほとんどありませんが、出産や疾病での就業不能といったケースに対応できる場合もあるため「社保完備」と書いてある場合でもどちらであるか確認した方がいいでしょう・

雇用保険と労災保険のみ加入している事業者のケースも多くはありませんが存在しており、その場合の自己負担は雇用保険料のみ(労災保険料は事業主が負担)と少なくなりますが、自主的に国民年金と国民保険を支払う必要があります。

まとめ:保険で職場は選べないけど、保険の違いは把握しておきたい!

以上、歯科医師の加入する保険制度については、いくつかのケースが混在しており、医院の規模や地域、収入や年齢によって負担や保障にも様々な差が出ることがわかってきます。

就職や転職などでは、賃金や休暇といった条件面について重点的に確認をすることが多いと思いますが、福利厚生や社会保障といった面ももちろん重要です。

保険で仕事を選ぶ! というのは本末転倒かもしれませんが、いざという時に役立つ保険、自分自身で把握した上で、新しい職場に飛び込んでいけるといいですね。